柴田:溝口監督の作品の中でも評価に高い「浪華悲歌(ナニワエレジー)」。見たい見たいと思っていたんですけど
これまでなかなか手を出せませんでしたが。
岡崎:どうして?
柴田:溝口作品ってなんか身につまされてね、体調のいいときしか観られへんのよ。
岡崎:はあ、なるほど。体調悪かったんですか?
柴田:もう、水のごとくリポD(リポビタンD)を飲んでますよ。
岡崎:それ、単なる夏バテちゃうん?
柴田:そうかも。
でも弱っているときほど小津より溝口作品が観たくなるね。
岡崎:そうお?
柴田:自分が忙しくって擦り切れるような思いのときは小津作品なんか観て心洗われる思いを感じたいねん。
ちょっと落ち着いたときには、溝口作品ですよ。
だからなかなか溝口作品の鑑賞は進まんのんな。
『浪華悲歌』 監督:溝口健二
出演:山田五十鈴・志賀廼家弁・梅村蓉子 他 1936年
電話交換手のアヤ子は、会社の金を横領した父親を助けるためにしかなく自分の会社の上司の愛人になる。
必要なお金を工面して社長と縁が切れた後、愛する恋人の元へ行こうとしたとき、
今度は兄が学費に困っていると知り、社長の友人の株屋に身を任せるふりをして金だけ奪う。
警察に突き出された彼女に対して彼女の家族の対応は冷たいのであった。 |
|
岡崎:ほほう、相変らずずけずけ物言う山田五十鈴はカッコいい女って感じですなぁ。
洋装の彼女は今見てもかっこいいなぁ。モダンガールやね。
柴田:むむむ。ラストはお気の毒やなぁ。家族のためというか、家族のせいで人生を捻じ曲げられたのに、
その家族の誰にも理解されないで家を追われるなんて。ひどいわ。
岡崎:ほんとやね。
柴田:現状を打開しようとせずに都合のいいときだけ頼ってきて、行動を起こさない人ほど責めることだけはするねんな。
岡崎:ふんふん。
この主人公も家族のことが無かったとしても結構気の強い感じやんか。
恋人の男の人にも強く言うこと言うたりして。「いいひと」とは見られにくいやんか。
でもほんとは家族のことを一番に心配して、自分が何とかしないとと思う責任感があるねんな。
そのへんが他の人には理解されへんねんな。それが不幸やね。
柴田:そうやねん。家族の問題が無かったにせよ、この主人公はいわゆる善人ではなかったんやけど、
それでもそんなに悪人でもないねん。じつに人間臭い。
だから溝口監督の映画は人間臭くて素晴らしい。そして身につまされるよ、なんだか。
岡崎:悪い部分が自分にもあるってこと。
柴田:その通りですよ。そしてアヤ子のようにたくましくいられるかと言う所が胸痛くなる感じやね。
|