なんでも、プロデューサーが勝手に高峰さんの出演料を受け取って、
木下監督の「破れ太鼓」出演を決めていた。
それを知った高峰さんは出演を断りに直接木下監督に会いに行ったという。
木下監督は「そんなケチのついた仕事はやめちゃいなさい」と言い、
「次はあなたのために脚本を書きます。気に入ったら出て下さい」と言った。
そうして、高峰秀子さんへあて書かれたのが「カルメン故郷に帰る」という脚本。
これ、高峰さんの役はちょっと頭の弱いストリッパーというもの。
しかし、「頭が弱い」というと聞こえは悪いが、
からっとした愛すべきこの「リリィ・カルメン」というキャラクターは
初対面で出演を断りに行った高峰さんの物怖じしない態度を、
木下監督が「おもしろく」思った上で生み出したものだろうと思う。
今でも映画撮影は手間隙かかるものだが、当時ほんとに大変だったろう。
初のカラー映画ということで、ドウランの色合わせやライトの光量調整が大変だったという。
しかも、カラーに失敗した時用にモノクロ版も同時に撮ってたって。
気が遠くなるような撮影作業だったに違いない。
しかも不器用俳優・笠智衆さんだけ、ドウランの色が合わず、
銅像のような顔色で映ってしまうというエピソードはおもしろい。
笠さん、どこまでぶきっちょやねん・・・
『カルメン故郷に帰る』 監督:木下恵介
出演:高峰秀子 小林トシ子 佐野周二 笠智衆 他 1951年
子どもの頃に牛に蹴っ飛ばされて以来少々お頭の弱いきんが、
友達の朱美をつれて生まれ故郷の信州の田舎へ帰ってきた。
きんは東京でストリッパーをしていて、それを新しい芸術だといいお披露目。
田舎のみんなはもうびっくり仰天なのであった。 |
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日本初の総天然色映画という記念的作品であるが、内容はくだけた喜劇である。
ストリッパーもので高峰さんと小林トシ子さんの衣装やお肌が鮮やかに目にうつる。
で、このカルメンのキャラが人気を読んで、続編が取られることになった。
「カルメン純情す」だ。
『カルメン純情す』 監督:木下恵介
出演:高峰秀子 小林トシ子 若原雅夫 淡島千景 他 1952年
ストリッパーのカルメンの元に、男に捨てられた朱美が赤子を連れて転がり込んだ。
子連れじゃ生活できないと赤子を大きな家の前に捨てた二人だが、
やっぱり赤子を育てようと思い直して赤子を取り戻しに行く。
そこでその家の主人である芸術家の須藤にモデルを頼まれたカルメンは恋心を知って
ストリップするのを恥ずかしく思ってしまう。
生活苦に陥りながらも健気に生き行く二人であった・・・ |
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「〜故郷に帰る」の続編なのでカラーかと思ったらモノクロでしたね。
やっぱよっぽどカラー映画撮るのが大変やった時代なんでしょう。
内容も前作に比べてぐっと暗い。
ストリップを芸術だと信じて自信を持って生きていたカルメンが
恋をしてしまって羞恥心を持ってしまってストリップできなくなったシーンはなんとも痛々しい。
前作では田舎で最先端のあっけらかんと垢抜けたカルメンが、
好きな人のために身を引く古風な女になってしまったのだ。
でもカルメンと朱美ちゃんのシーンは可愛らしくいじらしい。
「あたしだってせつないわぁ」なんて台詞のある映画が今にあるでしょうか。
健気なカルメンの朱美ちゃんは微笑ましいのである。
ふたりはストリッパーをやめ、売春への安易なお誘いも避けて
健気に労働をするのである。ああ、女のいばら道よ。
せっかく調子よく働いていた定食屋でも、ご主人に気に入られ、奥さんにやきもちやかれ
結局やめなきゃならなくなるのである。
「男なんて!」と思いながら、「でもあの人、いい男だったわぁ」と思うのである。
ああ、女の悲しき道よ。
ほんとは「カルメン」シリーズは3部作の予定だったというが、
最後の作品は撮られなかったようだ。残念。
カルメンと朱美ちゃんのコンビにはさらにたくましく明るく生きた続編が欲しかった。
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